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第18回ショパン国際ピアノコンクール レポート ワルシャワにて

2021年の第18 回ショパンコンクールは弊社にとって、大きな喜びで終わりました。
ファツィオリピアノをコンクール全ラウンドで演奏したBruce Xiaoyu Liu(ブルース・シャオユー・リウ、劉曉禹)が見事優勝を飾り、Martin Garcia Garcia (マルティン・ガルシア・ガルシア)が3位、Leonora Armellini(レオノーラ・アルメリーニ)5位と、ファイナルに進出したファツィオリ奏者3名全員が入賞を獲得したからです。ガルシアはコンチェルト賞も受賞しました。

ファツィオリ社が国際コンクールにデビューしたのは2010 年の同第16回コンクールでした。当時コンクール経験のない本社に委託され、日本チームが調律、アーティスト・リレーションなど全面的に担当しました。この時は、4名がファツィオリを選び、3名がセミファイナルに進出、ダニイル・トリフォノフが3位を勝ち取りファツィオリの音色の美しさを世界中に届けました。
その後、ファツィオリは数々の国際コンクールを経験し、今回のショパンコンクールでは、コンテスタントの8名がファツィオリを選定し3名がファイナルに進出、全員入賞・優勝を獲得しました。

非常に多くの方がネットで素晴らしい演奏を鑑賞されましたが、現地でサポートに当たった弊社アレック・ワイルより、コンクールの臨場感とエピソードをお届けしたいと思います。

コンクール会場

コンクールの会場となるワルシャワ国立フィルハーモニーホールは、約1,200席とあまり大きなホールではなく、ピアノからかなり近いところに審査員の席が設けられています。そのため、審査委員は非常に小さなピアニッシモでも良く聴こえる反面、些細なことも聞き漏らさず、わずかな違和感を煩わしく感じる可能性があります。

レオノーラ・アルメリーニのコンチェルトのリハーサル時に審査員席より舞台を撮影


また、世界中で沢山の方が楽しんだコンクールの配信を実現した高い音声・録音技術の一端を写真でご紹介します。ピアノ横のマイクスタンドだけではなく、ピアノの上、そして客席の天井からいくつものマイクが下がっています。しかし、マイクロフォンのバランスは難しい技術であり、いかに素晴らしい録音も、生演奏の素晴らしいシミュレーションであるという事実には留意すべきだと思います。ファツィオリに関しても、ホールで聴いた場合と後日ネット配信で聴いた場合を比べると微妙な音色の差を感じます(勿論、これは録音に付随する普遍の特性ですね)。


夜中の調律

ピアノコンクールの調律は基本的に夜中に行われるため、調律師にとって期間中は非常に過酷です。コンクール使用ピアノは5台のため、調律時間は5等分でローテーションという短い作業時間、常に変化するスケジュール、演奏中はホールで演奏中のピアノの音色を観察、と寝る時間も限られます。また、普通のコンサートと異なり、演奏前にピアノを触ることは許されないので、技術者はピアニストからの直接のフィードバックがない中で調整しなければなりません。

今回のファツィオリ調律師は本社より派遣されたOrtwin Moreau(オルトウィン・モロー)でした。コンクールHPに調律師のリストが表示され、「他のピアノ会社の技術者は数人なのにファツィオリは一人で可哀想」というコメントを多く頂きました。しかし、調律は手分けして行うわけにはいきません。ピアノの状態を適正に一貫した状態に保つために、一人の調律師が手掛けることは重要です。オルトウィンさんは最初から最後まで(3日間の入賞者コンサート中も)ずっと一人で作業を行いました。3日の入賞者ガラコンサートの終了後「これで全ての仕事が完了しました」というメールをもらいました。本当にお疲れ様でした。

第3次発表を待つ間の食事。右から、ブルース・リウ、オルトウィン・モロー、ポーランド代理店の技術者

夜中に作業中のオルトウィン・モロー

ショパン協会HPの調律師リスト


ピアノ庫

ホールのピアノ庫は舞台の下です。舞台のエレベーターでピアノを上げ下げします。
古いホールですので、10月という時期には温湿度変化がかなりあります。ピアノも冷えるし、次第に乾燥していくので、これに対する調整が必要とされます。調律はこのエレベーターで舞台に上げ、舞台の上で行われます。

舞台の下のピアノ庫で出番を待つピアノ

エレベーターで舞台に上げられて行くピアノ


ファツィオリのファイナリスト達

ファイナルの12名中の3人がファツィオリを弾きました。ファイナリスト達の素晴らしい経歴は皆さんご存知のことと思いますので、期間中に垣間見た彼らのパーソナルな面をご紹介します。

レオノーラ・アルメリーニは、2010年のコンクール時に初めて知り合いました。当時から非常に温かくフレンドリーな人です。チェロ奏者の双子の弟さんが付き添いで来ていました。


マルティン・ガルシア・ガルシアもビデオなどで紹介されている通り、明るく朗らかな人柄で、(見た目の印象より遥かに)思慮深い人です。お兄さんのダニエルさんが一緒に来ていました。ダニエルさんは弁護士で、マルティンをずっとサポートしています。

ファイナル演奏直後のマルティン・ガルシア・ガルシア

マルティンのお兄さんのダニイル・ガルシア・ガルシア(左)と
伊ファツィオリのコンクール責任者ルカ・ファツィオリ(右)


ブルース・リウは、舞台を降りるとユーモラスでリラックスした人です。3次の結果発表が遅れた時に、ドキドキしで待つのではなく、「もう寝る」と言って部屋に戻りました。いつも夜遅い最後の出番なので、その晩はグッスリ寝て、翌朝に結果を知るというパターンだったようです。

ブルース・リウ

ファイナル演奏終了後、食事をしながら結果発表を待つレオノーラ・アルメリーニ、ブルース・リウ、アレック・ワイル


ライバル同士でも仲良し

コンクールでは当然ながら優勝者もいれば、入賞できない人もでてきます。しかし、ピアノコンクールの参加者はとても仲が良いように思えます。

音楽コンクールの場合、スピードや音量など基本的に計れるものはなく、アーティストは芸術性を競い合います。そして、芸術には「絶対的なもの」はありません。競い合いながらも互いの個性的な芸術性を認め、讃え合います。その結果、各自が得られる喜びはさらに大きなものとなり、ライバル同志であり仲間という素敵な関係が築かれているように思います。

リセプションで和気あいあい


最終結果

トリのブルースのコンチェルト演奏の後で、コンクールの結果を待ちました。
いつも発表はホールのロビーで行われます。

今回も最初はロビーで待っていましたが、発表までに非常に時間がかかったため、ホール内に移動して座って待ちました。

ロビーでの発表を待つ人々

発表を待つ、左からファツィオリ調律師オルトウィン、マルティン、ファツィオリ創立者パオロ・ファツィオリ

ホールでファイナルの結果を待つパオロ・ファツィオリ


最終的に、予定より数時間遅れて現地時間の朝2時過ぎに発表がありました。その後、入賞者たちは翌日から3日間にわたるガラコンサートの説明も聞き、その晩は誰も寝る時間がありませんでした。

ファイナル結果発表


翌日は入賞者ガラコンサートです。会場は、オペラハウスに場所を移しました。そのため、ファツィオリのピアノは夜中に移動され、朝6時から8時の間にオルトウィンさんが調律を終えた後、演奏者はホールで約10分間づつリハーサルの時間が与えられました。
入賞者ガラコンサート初日はポーランド大統領出席の下、ピアノは一台のみ、全員ファツィオリでの演奏となりました。
2日目、3日目のガラコンサートはコンクール会場に戻り、各自コンクール中に弾いたピアノで演奏しました。

第18回ショパン国際ピアノコンクール入賞者ガラコンサート第1日目の演奏はこちら。

YOUTUBE:The 18th International Fryderyk Chopin Piano Competition, first prize-winners' concert, 21.10.2021

ガラコンサートに向けてわずかな時間でリハーサルを行う入賞者達


ガラコンサートはワルシャワ民にとって非常に特別なイベントです。オペラハウスは、特別なイベントに相応しい格式高く綺麗なホールで、フォーマルな装いで来場する方が多いくいらっしゃいます。


最後に・・・

ショパンコンクールのお蔭で、初めて聴く素晴らしいピアニストに出会う経験をされた方も多いでしょう。ショパンやピアノ音楽が世界的に脚光を浴び、ファツィオリも多くの注目を頂きました。皆様に心より感謝を申し上げます。今後、日本でも入賞者ガラコンサートと単独コンサートが開かれる予定です。多くの方が素晴らしいピアニスト達の演奏を直接会場でお聴きになれることを願っています。

同時に、入賞を果たすことができなかったピアニスト達も素晴らしく、多様な音楽を楽しませてくれました。
私から、その中の一人の演奏家をご紹介します。

Aleksandra Swigut(アレクサンドラ・スヴィグト)はポーランド人のピアニストです。2018年に行われた第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクールでは第2位に入賞しました。現在、ワルシャワのショパン音大で教鞭をとっています。今回のショパンコンクールの数週間前に彼女は論文を完成させ、博士号を取得しました。彼女の論文テーマは「ショパン時代の楽器での演奏」です。ショパンに関してこれほど学究的な造詣を備えた演奏はないのではないかと思えるほどに、他と比べて、かなり異なる演奏スタイルを持っています。
素晴らしいアーティスト達をこれからも応援していきましょう!

Aleksandra Swigutの1次の演奏はこちらでお聴きになれます。

YOUTUBE:ALEKSANDRA ŚWIGUT - first round (18th Chopin Competition, Warsaw)

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